はじめに

Databricks Data + AI Summit 2026(DAIS2026)では、生成AIやAIエージェントに関するセッションが数多く発表されました。筆者はSEGA、GSK、BASF、Copa Airlines、GM Financial、CVS Healthなどの11件のセッションを聴講しました。
複数のセッションを通じて共通的に見られたのは、議論の軸足が「AIで何ができるか」から「AIをどのように業務へ定着させるか」へと移っていた点です。
本コラムでは、聴講した各社事例に共通するポイントを整理し、企業がAI活用を本番化するために何が重要なのかを考察します。
1. AIは「便利機能」ではなく、業務基盤として定義
各事例に共通していた点は、AIが単独の便利機能としてではなく、業務基盤の一部として扱われていた点です。
GSKの事例では、サプライチェーン担当者が業務上の問いを自然言語で投げ、在庫や品質逸脱、物流影響などを把握する活用イメージが紹介されていました。GM Financialの事例でも、全社的なデータ変革を進めるなかで、AIをLakehouse、ガバナンス、セルフサービス分析と一体で捉えている点が印象的でした。このように、AIは「試すもの」から、「業務に組み込まれ、継続的に使われるもの」へと変化しつつあります。
2. 先に整えるのはAIそのものではなく、共通データ基盤
AIに注目が集まりがちですが、各事例で共通して重視されていたのは、AIを支えるデータ基盤です。AIの回答品質は、利用するデータの整理、意味付け、権限管理、品質管理に大きく依存します。文書活用の事例では、PDF、PowerPoint、画像、Excel、CSVなどをLakehouseへ取り込み、OCRによる文字情報の抽出や、文書・画像を解析して構造化するアプローチが紹介されていました。こうした取り組みは、AIにデータを渡す前段階として、情報を業務で使える形に整える重要性を示しています。
重要なのは、「どのAIモデルを使うか」だけではありません。利用可能なデータが整理されているか、意味付けされたメタデータが整備されているか、権限・監査・品質が担保されているかが、本番活用では大きな差になります。この準備を誤ると、AI活用はPoC止まりとなり、本番運用には耐えにくくなります。
3. 自然言語UIが、データ活用の入口に
複数の事例に共通して自然言語インターフェースの活用が進んでいました。GSKの事例では、製造や物流の担当者が現場の言葉で質問する活用イメージが紹介されていました。BASFの事例でも、構造化データと社内文書を組み合わせながら、チャットを通じて回答し、その後の業務アクションにつなげる方向性が示されていました。GM Financialでは、Genie(Databricksの自然言語分析機能)がセルフサービス分析環境の一部として位置づけられていた点が印象的でした。
従来はSQLやダッシュボード操作の知識がデータ活用の前提になりがちでしたが、Genieのような自然言語インターフェースにより、業務担当者がより直接的にデータへアクセスできる可能性が広がっています。日本企業でも「データはあるが、活用できる人が限られる」という課題は多く見られます。自然言語UIは、その入口を広げる有効な手段の一つと考えられます。
4. 汎用AIではなく「ドメイン特化型AI」が成果を生む
各事例を通じて改めて確認できたのは、成果を出しているAIほど、汎用的に作りすぎていないという点です。
GSKはサプライチェーン、CVSは需要予測の説明業務、BASFはマーケティング用途、Copa Airlinesは運航・収益・顧客分析、GM Financialは金融業務部門ごとの分析というように、いずれも明確な業務ドメインごとにコンテキストを限定していました。
万能型のAIではなく、特定の業務に最適化されたAIの方が、精度、信頼性、実用性の面で優位性を持ちます。まずは限定されたドメインに適用し、成功パターンを確認しながら全社展開へ広げていく方法が、現実的なアプローチと言えるでしょう。
5. 求められているのは「答え」ではなく「説明できる答え」
今回のセッション群を通じて、一貫して重要だと感じたのは、説明可能性です。
AIが回答を返すだけでは、業務利用には不十分です。なぜその回答に至ったのか、どのデータや文書を根拠にしているのか、どの前提で判断しているのかを示せることが重要になります。
GSKの事例では、単なるKPI確認ではなく、根因分析や次の打ち手につなげることが重視されていました。文書活用の事例では、回答に対して出典やファイル名を示す仕組みが組み込まれていました。
企業では、意思決定や顧客説明、監査対応など、説明責任が求められる場面が多く存在します。そのため、AI活用においても、「説明できること」「根拠を提示できること」は重要な要件になります。
6. 本番展開にはガバナンス・コスト管理・人材育成が不可欠
各事例に共通していたもう一つの重要な要素が、運用設計への取り組みです。
GM Financialの事例では、FinOps(クラウド利用コストを最適化する手法)によるコスト可視化、Adoptathon(利用促進と定着を目的とした取り組み)やCenter of Excellence(専門知識やノウハウを集約し、全社的に活用・展開するための専門組織)による人材育成が紹介されていました。これにより、単なる技術導入ではなく、組織としてAIを活用し続ける体制が整備されている点が印象的でした。
AIは高性能であるだけでは不十分です。コストが管理できない、処理が遅い、権限管理が曖昧、改善責任が不明確といった状態では、現場で使われ続けることは難しくなります。
成功している企業ほど、AIそのもの以上に、ガバナンス、運用、人材育成への投資を重視しているようです。
まとめ――AIを現場へ定着させる全体設計
DAIS2026の複数セッションから見えてきたのは、AI活用が確実に次のフェーズへ進んでいるということです。
競争力を分ける要因は、単に最新のモデルを導入しているかどうかではありません。データ基盤の整備、業務コンテキストの組み込み、自然言語UIによる利用しやすさ、説明可能性、業務との連動、継続的な改善といった要素を含めた「全体設計」が重要になります。
これからのAI活用で求められるのは、単にAIを導入する力ではなく、AIを業務に定着させるための設計力だと言えるでしょう。
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