COLUMNニューソンコラム

2024.02.06

” 便利な車 “を支える技術への挑戦 コネクティッドサービスをアジャイルで開発

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インターネットに常時接続し外部と情報連携しながら走るコネクティッドカーは、2022年には新車販売数の50%以上と急速に普及しており、身近なクルマになっています。通信回線や周辺技術の発展により取り扱うことができるデータ量や処理速度は年々向上しており、コネクティッドカーは進化を続けています。

当社では、様々な業界・業種のお客様とアジャイル開発を実施しています。その中でも各社自動車メーカー様にご協力する形で『コネクティッドサービス』の開発も実施しており、そのサービスの実現に必要となる各種知見を保有する人財・チームが在籍しています。
今回ご紹介する事例は、某自動車メーカー様での企画構想段階から携わらせていただいたサービスの一つで、高いご評価をいただいたものです。

当社が手がけたコネクティッドサービス
リアルタイムにドライバーの運転技術を可視化

『コネクティッドサービス』とはクルマが通信することで新たに生まれたサービスのことです。
有事の際に自動で緊急通報を行うことや、走行情報を共有し渋滞情報をリアルタイムで分析・先読み案内を行う、車外からスマートフォンアプリを使ってリモートパーキングをする、クルマ自体がWi-Fiのホットスポットになる、など、ドライバーの利便性を高める様々なサービスが生まれており、当たり前になりつつあります。

当社が開発に携わったコネクティッドサービスは、クルマのECUユニット※1から送信される各種テレメトリデータ※2を迅速に解析・記録しドライバーの運転技術を可視化することで、ドライバーの成長を促しつつ、クルマへの理解も深めることができるというものです。従来、専門的な走行データは表示するにあたってデータエンジニアによる複雑なパラメータ設定や解析が必要ですが、このサービスを用いれば特別な設定をせずとも、ドライバーのアクセル・ブレーキ・ステアリングなどの操作量や各種センサーの情報をマップやグラフなどで表示できます。

このプロジェクトでは、企画段階からサービスの実現イメージを固めるためにプロトタイピングと技術検証を繰り返し、アジャイル開発を実施したことで、最終的に正式なサービスとして公開に至るまでご支援をすることができました。

※1 ECUユニット(エレクトリック・コントロール・ユニット):クルマに搭載されている電子機器を制御する装置のこと。
※2 テレメトリデータ:リアルタイムにクルマの詳細な情報を把握するために社外へ送信されるデータのこと。エンジンの状態や車速、アクセル開度、位置情報などが含まれる。

アジャイル開発と少人数のスクラムチーム

従来よりも少ない人数で開発を担当

アジャイル開発は短い期間での開発サイクルを繰り返す開発手法で、実現したい仕様要求に柔軟に対応できるというメリットがあります。 当社では、アジャイル開発のフレームワークのうち、多くのチームでスクラムを採用しています。

スクラム開発のバイブルであるスクラムガイド(2020/Ken Schwaber & Jeff Sutherland 共著)では、小さなチームの方がコミュニケーションを取りやすく、生産性が高いことからスクラムチームは10名以下で構成することが通常であると記載されています。当社でも通常は5~7名程度のスクラムチームを構成しています。
また、スクラムでは、適切な大きさに分割されたプロダクトバックログアイテムに優先順位をつけて期間ごとに開発を行います。

今回のコネクティッドサービス開発では、クラウドとクルマそれぞれでスクラムチームがあり各チームで開発したものをあわせて一つのサービスを作り上げる必要がありました。プロジェクト開始当初、当社はクラウドのスクラムチームを任されており、チームは通常より少ない3名で構成していました。少人数のため、アジャイル開発のスペシャリストとしての経験があり、技術を幅広く持っているメンバーが参画していました。

問題の本質を探り、対応可能な粒度に分解

いざ開発を進めていくと、“顧客・様々なステークホルダー(仕様要求のある部門、関係者を指す)が求める新機能の重要性” や “テレメトリデータを扱う技術的難易度” などの要因から、チームが対応するプロダクトバックログの量が多くアイテムも大きい、という問題に陥りました。そこで解決方法について検討した結果、開発スコープをチームが処理できる適切な大きさに変化・分解させることが必要であるということが分かりました。
適切な大きさに分解するにあたり、当社メンバーが主体となり、“顧客やステークホルダーにとって真に必要であり、かつ自分たちのチームではないと作ることができない内容” に細分化していきました。

クルマの進化の未来を見据えて何度も協議。
ステークホルダーに納得いただくことで当初の計画通りにサービスを提供

コネクティッドサービスはクルマとクラウドが通信することで実現するサービスですので、クラウド側ではなくクルマ側でデータを処理した方が速度面・データ通信量面で効率的な場合があります。しかし、電力量や処理能力、データ保存容量などの制限を踏まえると実現が難しい場合もあり、クラウド側での処理が求められることも少なくありません。
今回は、この求めに応じてクラウド側での処理実装を安直に行うのではなく、サービスの将来像とクルマの進化の未来を見据えた全体アーキテクチャについてステークホルダーと何度も協議し、自チームだけで実現すべきではないバックログであることを忍耐強くご説明し、ご理解をいただくことで、現在のチーム構成のままで開発を進めてみようという合意に達しました。

ステークホルダーの理解を得ることができ、チームが開発に集中することができるようになったことで、開発は安定したリズムで進み、その結果当初の計画通りにサービス提供ができました。
次回以降のコラムでは、開発の過程で発生した技術的に困難だった事などについてもご紹介できればと考えています。

アジャイル開発の実践方法は様々ですが、当社は今後もアジャイル開発の研鑽を重ね、お客様のご期待に添えるよう、努力してまいります。

執筆者

山本 陽彦
デジタルソリューション事業部 DX統括部 アジャイル開発担当 担当部長
ERPパッケージや複数のシステム開発業務を担った後、金融系のPMとしての経験を重ねる。現在はアジャイル開発領域を担当している。
永田 宏樹
デジタルソリューション事業部 DX統括部 アジャイル開発担当 エキスパート
リードエンジニアとしてR&DやPoC、システム開発から環境構築まで様々な工程・役割で活躍するフルスタックエンジニア。現在は次世代モビリティサービスの開発に従事している。

監修

鷲見 俊祐
デジタルソリューション事業部 DX統括部 統括部長
様々なシステム開発業務、中国や米国での海外駐在業務などに従事した後、先進技術活用による新規ビジネス創出活動に携わる。現在は、次世代モビリティ領域事業を牽引している。