COLUMNニューソンコラム

2023.10.25

第1回:クラウドのマーケットと現状の課題 【連載】クラウドネイティブ:ビジネスの競争力を高める革新的なアプローチ

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近年、DXの加速とともに各社のクラウド活用もますます活発化してきています。なかでもオンプレミスのシステムをクラウドに移行する企業は年々増加傾向にあり、クラウドへの移行を完了した企業においては、移行後に様々な課題が顕著化し、頭を悩ませているのではないでしょうか?また、これからクラウドを利用したシステム構築を検討している企業においてもクラウドの特性を最大限に活用するシステムをどのように構築するか課題感を持っているかと思います。

本コラムでは今後のクラウド活用におけるマーケット動向や技術動向と当社の取り組みを全3回に亘ってお届けします。
第1回目となる本コラムではクラウド活用におけるマーケット状況とクラウド活用後の課題について紐解いていきたいと思います。

現在のマーケット状況から見るクラウドを取り巻く環境の変化

国内クラウド市場は「リプレイスメント/効率化」、「DX/データ駆動型ビジネス」での利用拡大を背景に、マーケットが拡大してきました。
IDC Japanが発表した「国内クラウド市場 用途別売上額予測」によると、これまでと同様に「リプレイスメント/効率化」を中心としたマーケットは今後も順調に推移することが予測されています。これと並行して「DX/データ駆動型ビジネス」での需要拡大により、今後はクラウドの特性をいかしたシステム開発へとマーケット需要はシフトしていくことが見込まれます。


これまでのクラウド活用
(とりあえずクラウドを利用してみるという考え方)

クラウドは「クラウドファースト」、「クラウドバイデフォルト」の号令とともに大きく普及し、これまで多くの企業で運用負荷の軽減、業務効率化、コスト削減を目的としたクラウド活用が推進されてきました。多くの企業ではマイグレーションや業務効率化を目的としたオンプレミスからクラウド環境へのリプレイスメントを進めてきたことと思います。


対して、一部の企業では、より安全にクラウド上にシステムを構築、移行することに価値を見いだし、クラウド特性を後回しにしてクラウド環境へのリプレイスメントを進めた結果、クラウド活用前に思い描いていた姿とのギャップに直面していることと思います。
ギャップを生み出す背景には、パブリッククラウド技術者の不足、パブリッククラウドスキルの未習熟など多岐に亘る要因があります。


クラウドファースト
ビジネスにおいてクラウドを優先し、クラウドサービスを中心にITインフラを構築・利用する戦略のこと。
クラウドファースト戦略を採用することで、コスト削減や柔軟性の向上、スケーラビリティや可用性の向上などのメリットが得られると言われている。
クラウドバイデフォルト
既存システムのリプレースメントや、新規システム化を検討する際にクラウドサービスの利用を原則として打ちだす考え。
各府省で政府情報システムの導入をする際の第一候補としてクラウドサービスを検討する方針を「クラウド・バイ・デフォルト原則」と呼ぶ。

クラウド活用の利点

ここであらためてクラウド活用の主な利点を挙げてみましょう。クラウド活用の利点は多岐に亘りますが、その利点をいかすことにより効率的なインフラストラクチャを実現し、ビジネスの競争力を加速させることができます。

柔軟なコスト体系 利用コストが従量課金制であるため、リソースを最適化することによりコストを削減することができます。
また、ハードウェアの購入やメンテナンスをクラウドベンダーが受け持つため、これらにかかるコストを削減できます。
柔軟なスケーラビリティ 使用するリソースを柔軟にスケールできるため、需要にあわせて容易に増減させることができます。
クラウドが提供するスケーラビリティを活用することにより、トラフィックの急激な増加にも対応でき、高いパフォーマンスを維持できます。
高可用性と高冗長性 クラウドベンダーがデータセンターを冗長化することにより高い可用性を提供しています。
提供された可用性を利用することにより、障害が発生してもサービスを停止することなくビジネスを継続することができ、信頼性が向上します。
セキュリティ対策とコンプライアンス セキュリティに関する最新のベストプラクティスとリソースを提供しています。
多くのセキュリティツールや機能を提供していることから、これらを活用することによりセキュリティ対策を容易に実現できます。
ただし、セキュリティに関する責任はクラウド利用者側にも生じることに留意が必要です。
高フレキシビリティと高拡張性 様々なサービスと統合することができ、開発者に高いフレキシビリティを提供します。
新しいテクノロジーやアプリケーションの導入が比較的容易であり、ビジネスニーズにあわせてカスタマイズすることも可能です。
自動化とスケジューリング 自動化機能とスケジューリング機能を提供しています。
これらの機能を利用することにより、タスクの効率化とリソースの最適化を行うことができます。

クラウド特性を十分にいかせないことによる課題

クラウド活用の利点は多いものの、「当初の想定よりもクラウド利用コストが大幅に増加し、予算を超過した」、「クラウドを採用したことにより、これまで以上に運用担当者の負荷が増加した」、「ビジネスを優位的に進める企画を早急にリリースしたいが、リリースまでに時間を要し、ビジネスチャンスを逃した」など、クラウドの特性を十分にいかしきれないことにより様々な課題が生じることがあります。これら課題の一部を具体的にご紹介しましょう。

想定を超えたクラウド利用コストの増化

クラウド利用にともなうコストは予測が難しく、予算の管理が難しいと言われています。主要パブリッククラウドベンダーの料金体系がドル建てということもあり、昨今では円安の影響を受けてクラウド利用コストが大幅に増加している傾向にあります。また、IaaSを数多く使うことによりクラウドが持つ従量課金制の特徴をいかしきれないシステム構成になりコストがひっ迫するケースも見受けられます。

開発スピード、移行性の低下

システムの故障対応、機能追加などによりシステムのリリースを行う際に計画停止を行う場合があります。システムの計画停止は関係各所との調整に労力を要すこともあり、サービスの提供スピード低下やサービス停止によるビジネス機会の損失へもつながります。システムを停止せずにリリースすることが可能な仕組みを利用して、迅速なサービスを提供することへの検討が必要です。

アプリケーションの古いアーキテクチャ

古いアーキテクチャを利用したアプリケーションは時にクラウドを利用することによりシステム開発、運用を難しくすることがあります。実現したい機能がクラウドで提供されていることを知らずに、アプリケーション側で実装することによって品質確保に余計なコストが生じます。
クラウドの特性を阻害する既存のアプリケーションをクラウド環境に適用させるためのアーキテクチャの変更や最適化の検討が必要です。

パブリッククラウド要員確保の難しさ

市場の拡大とともに開発技術者、運用技術者が不足傾向となり、クラウド特性をいかした開発や運用管理に対応できていない場合があります。
パブリッククラウド開発では、利用するベンダー(AWSなど)が提供するサービスについての幅広い知識が必要となります。また、運用においてもパブリッククラウド特有の運用などが必要となり、運用担当者もパブリッククラウドの知識を持つことが重要です。
昨今の要員確保が難しい状況下においては、開発担当者、運用担当者の育成が急務となりますが、クラウドエキスパートがいない環境ではなかなか育成が進まないという課題も散見されます。

運用負荷の増加

サーバーの乱立により増加の一途をたどるクラウドの運用管理にともない運用担当者の負荷が増加し、人員コストも増加する傾向が見られます。

クラウドの利点を最大限に活用する最適解

これらの問題を解決し、クラウドの利点を最大限にいかす「クラウドネイティブ」が昨今注目されています。
クラウドネイティブとはクラウド特有の機能や特性を最大限に活用したアプリケーション開発やシステム構築・運用をするための方法論を指します。

クラウドネイティブと呼ばれるシステムのベースは、コンテナテクノロジーの採用、マイクロサービスアーキテクチャ、自動スケーリングや継続的インテグレーション/継続的デリバリーなどのテクノロジーやアーキテクチャを利用することにより、より柔軟なシステムを構築することができます。

CloudNative
クラウドネイティブの構成要素

クラウド特性を最大限にいかす「クラウドネイティブ」の詳細については、次回のコラムでお話したいと思います。

執筆者

米山 勝也
基盤サービス事業部 システム技術統括部 クラウド技術担当
オープン系システム開発、組み込み開発、WEBアプリケーション開発など様々な技術領域の開発に従事。現在はパブリッククラウド(AWS)によるシステム開発のインフラを担当。