COLUMNニューソンコラム

2025.06.25

クラウドだから実現できた高トラフィックシステム移行事例 ~ オンプレミスからの段階移行・クラウドネイティブの実践 ~

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本コラムでは、当社が開発に携わったクラウドインテグレーション案件の事例として、HR領域の大手企業におけるクラウドネイティブ開発の取り組みをご紹介します。

対象となるシステムは、求人情報の閲覧・検索から応募・マッチングに至るまでを包括する、HR領域における大規模なWebプラットフォームです。このシステムは日常的に高トラフィックの状態が続いており、ピーク時には、1時間あたり 1.4万人以上の同時アクセスが発生することもありました。

本事例では、既存サービスを停止することなく、段階的に新システムへの移行を進めるという課題に対し、高トラフィック対応、クラウド最適化、可用性重視の設計が求められました。これに対し、クラウドの特性を最大限活かしたアーキテクチャを採用することで、堅牢かつ柔軟なシステムを実現しています。

なお、「クラウドネイティブとは何か?」については、当社の過去のコラムでも詳しく解説しておりますので、ぜひ併せてご覧ください。

 

高トラフィックシステムの新旧シームレス移行プロジェクト

本プロジェクトは、お客様の既存システム移行案件の中でも、特に重要な機能基盤を対象とし、従来のオンプレミス環境からクラウド環境へと段階的に移行する取り組みです。プロジェクト全体としてクラウド環境への移行を進めることで、コスト削減を実現しつつ、サービス価値の最大化を目指しています。

現行機能はそのまま稼働させながら、クラウド環境への切り替え比率を段階的に高め、最終的には 100%の移行を目指しています。

本システムは日常的に高トラフィックが予想され、1日あたり約10万人が利用、ピーク時には1時間で1.4万人以上のアクセスが発生することもあります。また、本サービスはお客様の主要事業の一つであり、システム障害が即座に多額の損失につながるリスクも抱えています。

こうした要件に対応するため、本プロジェクトでは以下のようなクラウドインテグレーションの基本原則を軸に設計・実装を進めました。

  • 既存サービスに対する新機能の柔軟な追加を可能にする拡張性
  • 高トラフィックに対応可能なスケーラブルなアーキテクチャ
  • 利用されていないリソースの即時クリーンアップによるコスト最適化
  • マルチ環境への迅速な展開と切り替え
  • IaC(Infrastructure as Code)と CI/CD による構成管理の徹底
  • Datadog を活用したシステムの可視化と監視

クラウドネイティブなシンプル構成

本システムは、シンプルかつクラウドネイティブなアーキテクチャを採用しており、可用性とスケーラビリティを両立した構成となっています。トラフィックは以下のような流れで処理されます。

CloudFront (+WAF※1) → ALB※2 → EC2 (リバースプロキシ)※3 → ALB → ECS※4

概要図

この構成により、外部からのリクエストを効率的に分散・制御しつつ、内部サービスへの柔軟なルーティングとスケーリングが可能となっています。

技術トピック:

  • CloudFront Functions を活用し、定期メンテナンス時のシステム閉塞処理を実現。
  • CI/CD パイプラインには GitHub Actions を採用し、Terraform 実行から ECS へのデプロイまでを自動化。
  • 構成管理は GitHub Enterprise を中心に運用し、監視基盤は Datadog を用いて構築。
  • 新旧システムのトラフィック振り分けには AWS Evidently を使用し、活用し、段階的なリリースに柔軟に対応。
CI/CD図

Datadog を含む全構成を IaC で管理し、デプロイから運用監視までを一貫して自動化。これにより、高頻度なリリースや段階的な移行にも柔軟に対応可能な体制を実現しました。

  • ※1 WAF(Web Application Firewall):Webアプリケーションを悪意のあるアクセスから保護するファイアウォール。AWSでは「AWS WAF」として提供されている。
  • ※2 ALB(Application Load Balancer):アプリケーション層で動作するロードバランサ。リクエストのパスやホスト名に基づいてバックエンドのターゲットグループに振り分ける。AWS Elastic Load Balancing(ELB)の一種。
  • ※3 EC2(Elastic Compute Cloud):AWSが提供する仮想サーバ。ユーザーはCPU・メモリ・ディスクなどを柔軟に指定してサーバ環境を構築・運用できる。
  • ※4 ECS(Elastic Container Service):AWSのコンテナ実行基盤。Dockerコンテナをスケーラブルに管理・実行するためのマネージドサービスで、FargateやEC2上で稼働させる構成が選択可能。

クラウドのメリットを活かした開発、運用

本プロジェクトにおけるクラウド選定の理由は明確であり、以下のようなメリットを最大限に活かす構成を採用しています。

スケーラビリティ重視の設計

高アクセスが予測される本システムでは、クラウドのオートスケーリング機能を活用することで、突発的な負荷増にも柔軟に対応可能です。リクエスト数が急増した際にも、事前に設定された条件に基づき即座にリソースが自動で増強され、オンプレミス環境では困難だったスケーラビリティを実現しています。また、深夜帯などの非稼働時間にはリソースを自動的に縮小することで、常時高性能なマシンを維持する必要がなくなり、コスト最適化にも大きく貢献しています。

開発効率と拡張性の両立

本プロジェクトでは、10以上の開発環境を並行して運用していましたが、不要になった環境は即時にクリーンアップ可能であり、「使用した分だけ課金」というクラウドの特性を活かして、開発リソースの無駄を最小限に抑えています。さらに、Terraform によるインフラ構成のコード化により、環境の再現性が高まり、新機能の追加やバグ修正にも迅速に対応できる体制を構築しました。

高精度の監視・モニタリング

Datadog を活用した統合監視基盤により、開発環境から本番環境までを一元的に可視化しています。スパイク的なアクセスやクリティカルなエラーも即時に検知可能です。さらに、コスト監視にも Datadog を活用し、不要なリソースの可視化と削除を迅速に行うことで、運用効率の向上とコスト削減を両立しています。

SLOを基準とした品質管理

本プロジェクトでは、一般的な SLA(例:稼働率99.0%)に加え、より厳格な SLO(例:稼働率99.95%)を要件として設定しています。短期(数時間)および長期(30日)でのサービス品質を継続的に監視し、安定性と信頼性の高い運用を実現しています。

スムーズな段階的移行のための工夫

本プロジェクトでは、オンプレミス環境からクラウド環境へのシームレスな移行を実現するため、CloudWatch Evidently を 応用し、新旧システム間のトラフィックを段階的に振り分ける仕組みを構築しました。具体的には、ABパターンに新旧システムを設定し、トラフィック比率を段階的に調整することで、リスクを最小限に抑えながら、スムーズな移行を実現しています。

おわりに

本プロジェクトは、IaC、CI/CD、自動スケーリング、可観測性(Observability)、拡張性といったクラウドインテグレーションの基本要素を網羅した、クラウドネイティブアーキテクチャの優れた実践例といえるでしょう。
今後はさらなる機能拡張やスケーラビリティの強化も予定されており、本プロジェクトにおけるクラウド移行の取り組みは、引き続き進化を続けていきます。

当社では、こうしたクラウドネイティブなシステム構築・移行を支援するクラウドインテグレーションサービスを提供しています。要件定義から設計・実装、運用まで一貫してサポートし、お客様のビジネスに最適なクラウド活用を実現します。
クラウド移行やモダナイゼーションをご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

執筆者

k.yamada
山田 晃平
基盤サービス事業部 第一技術統括部 クラウド技術担当
公共系システムのクラウドリフト案件などパブリッククラウド(主に AWS)を活用したシステムのインフラ開発を担当。

監修

Obata
小畑 愛実
基盤サービス事業部 第一技術統括部 クラウド技術担当
データ活用プロジェクトを多数経験したのち、現在はパブリッククラウドを活用した基盤構築案件の管理を中心に担当。現場経験を活かし、社内外のプロジェクト推進に取り組む。

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