次世代モビリティプラットフォーム構想(1) ~ モビリティプラットフォーム市場背景・動向調査 ~
- モビリティプラットフォーム
- 自動車
- SDV
- DX
- データ活用
- MaaS
- CASE
- コネクティッドカー
- EV
- OTA
自動車業界ビジネスの変革
自動車業界は100年に一度の変革期を迎えています。
これまでは車そのもの(モノ)に価値がありましたが、これからは体験やサービス(コト)にも価値を見出すようにユーザーの価値観が変わってきているのが現状です。
この変容を受けて、車のソフトウェア化(SDV:Software Defined Vehicle)や車に通信機器が搭載されインターネット接続が可能になるコネクティッド化など、車の技術革新も急速に進んでいます。
車は単なる移動手段ではなく、多くの価値を提供できる存在へと進化しようとしています。
こうした背景から、日本国内においても 2024年5月に経済産業省と国土交通省を中心としたモビリティDX戦略が策定され、OEM※1 各社も独自のプラットフォーム構想を推進し始めています。
モビリティプラットフォームとは
モビリティプラットフォームとは、車のデータを収集し、そのデータを活用して様々な「サービス」を提供するための「市場」のようなものです。この市場には、食品や衣類などの様々なお店が出店し、人々が集まって活性化するように、異なるサービスが共通の基盤上で連携して動作します。
プラットフォーム上では、車・基盤・アプリケーションを繋ぐ部品群(API)を用意することで、サービス事業者は様々な「サービス」を提供できます。例えば、車両データを活用したナビゲーションサービスや保険の最適化、車内エンターテイメントやリモートメンテナンスなどが挙げられます。
OEM を中心にプラットフォームを推進することで、従来は個別に提供されていたサービスが統合され、よりシームレスで便利な体験が可能となります。
当コラムでは、モビリティプラットフォームの現状について記載します。
モビリティプラットフォーム動向 現状分析 ~海外編~
モビリティプラットフォームとは実際にどのようなものがあるのか、国内外の動向調査を元にご紹介いたします。
まず海外においては、OEM各社を中心とした次世代モビリティプラットフォームサービスが続々と登場しています。
Tesla社が代表的ですが、当コラムではあえてTesla社以外のOEMに焦点を当て調査を行いました。
以下、モビリティプラットフォームの一例をご紹介します。
■ BMW:「BMW and MINI CarData」
車両データを収集し、リモートで車両状況の確認や運行情報の取得、また、ユーザーの運転状況に合わせた保険の提案など、様々なサービスが利用可能です。ヨーロッパ(欧州経済領域(EEA))に拠点を置くサービスプロバイダは、このプラットフォームを利用してサービスを開発及び提供する事が可能です。
このサービスにはBMW(自動車メーカー)、ユーザー、サービス事業者(サードパーティ)のステークホルダーが登場します。
それぞれがどのような収益構造となっているのか、サービススキームの概要を記載します。
ステークホルダー | 提供 | 受領 | 利用料 |
BMW | ・プラットフォームを提供 ・ユーザーにレポート提供 |
・ユーザーからデータ受領 | ー |
BMWユーザー | ・BMWにデータを提供 | ・BMWからレポートを受領 ・サードパーティのサービスを利用 |
・サードパーティに利用料支払い |
サービス事業者 (サードパーティ) |
・ユーザーにサービスを提供 | ・BMWからプラットフォーム利用 及びユーザーデータを受領 |
・BMWにプラットフォーム 及びデータ利用料支払い |
■ GM:「GM OnStar」
BMW/MINI CarDataの様に、車両データを活用した様々なサービスが利用可能です。緊急時のロードサービス支援や、家族と位置情報の共有等セキュリティ面に特化したサービスが特徴です。対象車両についてはGM車両がメインですが、今後は他のメーカーの車両でも利用可能となるような取組を推進しています。
■ ヨーロッパ全体での業界横断DXプロジェクト ~ Gaia-X/Catena-Xのご紹介 ~
海外市場においては、OEM各社単位でのプラットフォームが乱立しているように見受けられる一方、2023年から本格始動したGaia-Xといった、ヨーロッパ全体の各分野のデータ共有を目的としたプロジェクトも存在します。
また、Gaia-Xの一部にCatena-Xという自動車業界にフォーカスした取り組みも始まっています。ドイツ政府を中心にOEM、Tier1※2 、化学、IT等、日本企業も含む様々な企業が参画し、官民一体でプラットフォーム構想を推進しています。
現在は実証実験の段階ですが、今後、OEM横断、またOEMとはこれまで関係のなかった第三者のプレイヤーも関わることで、モビリティプラットフォームとしての目指すべき姿に近づくのではないかと考えています。
モビリティプラットフォーム動向 現状分析 ~国内編~
国内においても、トヨタ自動車より MSPF(モビリティサービスプラットフォーム)構想、また、日産自動車とHONDAにて次世代SDVプラットフォームについて共同研究を行うことを発表しており、OEM各社を中心に、次世代モビリティプラットフォーム構想を打ち出しています。
しかし現時点では実現に向けた試験研究を始めた模索段階であり、海外と比べて国内のプラットフォーム推進は遅れを取っているのが現状です。
これからのグローバル競争を勝ち抜くためには、セキュリティ面や法規制、また自前主義といった企業文化的な課題もクリアしながら、プラットフォーム開発を推進していくことが求められていると考えています。
次回コラム
当コラムでは、自動車業界を取り巻く背景や国内外におけるモビリティプラットフォームについての動向について記載しました。
次回コラムでは、NTTデータ ニューソンが考えるモビリティプラットフォームの未来・将来構想について記載します。
執筆者
- 熊谷 峻
- デジタルソリューション事業部 DX統括部 インテグレーション担当 課長代理
- これまで主に BI 及び CPM 領域を中心としたデータ分析、経営管理等のシステム開発案件に従事。現在は大手自動車メーカーのプロジェクトにて、プロダクトの企画・構想を行う上流工程から参画。ニューソンの次世代モビリティ領域の事業拡大に向けた活動を行っている。
監修
- 鷲見 俊祐
- デジタルソリューション事業部 DX統括部 統括部長
- 様々なシステム開発業務、中国や米国での海外駐在業務などに従事した後、先進技術活用による新規ビジネス創出活動に携わる。現在は、次世代モビリティ領域事業を牽引している。